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大島研究室 藤原 由果 | |
1.背景と目的 近年において「電子化」が盛んに叫ばれているが、それは建築業界においても例外ではない。建築業務の情報はCAD,CALS、インターネット等を利用し、企業間の電子商取引、情報公開等の国際的な動向を受けて変化している。社会的にそのニーズが高まる中、企業での対応や電子化に関する意識等、不鮮明な点が多い。 そこで本研究では、今までの建築業界の「電子化」の動向を探り、建築設計業務におけるその位置づけを確認すると共に、「電子化」の現状把握を行った。建築業界の基盤として支えている小規模設計事務所を対象とし、その現状を知る事で、より現実的な活用実態を明確にする。建築設計と「電子化」の現状を明確に把握する事で、今後のより有効的な活用が可能であると考えた。 2. 調査概要 本研究の「設計業務の情報における電子化」とは、「設計業務におけるコンピュータと電子媒体の活用」についてである。それが有効的なものとなっているのか、問題点はないのかを文献調査とアンケート調査により検討する。その際アンケート調査は、コスト面・技術者不足等で「電子化」への対応が遅れると予想される地方の小規模設計事務所を対象とした。 2.1 文献調査 まず、今までの「電子化」の動向を探る為、建築関連雑誌より「情報の電子化」に関する記事を収集した。それにより設計業務への効果や問題点を明らかにする。そして設計業務の中での「電子化」の位置づけを把握する。2.2 アンケート調査 「情報の電子化」の現状把握のため、建築設計におけるCAD利用やネットワーク活用、それに対する意識等についてアンケート調査を行った。調査対象は県内近郊の小規模設計事務所とし、1998年に行われた大江氏他1)による研究結果と比較した。そして小規模設計事務所における「電子化」活用の傾向を考察する。 3. 結果および考察 3.1 電子化の動きと効果・問題点 まず、建築業界の「電子化」の動向を把握するため、文献調査の記事をキーワード化し件数を年代毎に示す(図1)。1996〜1998年頃「電子化」に対する関心が著しく高まっていた事が分かる。最近に至っては記事件数も減り、「電子化」が浸透しつつあると言える。 |
次に、記事中の「CAD導入・CAD図面」「データベース化」「ネットワーク」について、大規模組織事務所で挙げられていたそれぞれの効果・問題点をまとめた(表1)。全体的に電子化による効果として「効率化・省力化」について期待している。問題点については「CAD図面」に関する事が最も多く、それは「電子化」の位置づけを間違って解釈し活用すると独創性やスケール感が失われた図面になってしまうという事が挙げられた。 次に、設計業務の流れに沿って、それに関わる電子化とその効果・問題点を例として示す(図2)。設計業務の至る所で「電子化」は図られている。この事により、設計業務のスピード化が可能となる。しかし、問題点もある。特に設計者と施主・施工者間での信頼性は絶対であるので、コミュニケーションが重要である。電子化でのコミュニケーションが有効的になれば、より設計業務への電子化導入は進むと考えられる。 ![]() ![]() |
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3.2 小規模設計事務所における電子化の現状
次に、「情報の電子化」に関するアンケートの結果を項目毎に示す。回答率は、送付先120社中、有効回答37社であった。
@CAD利用状況(図3) 大江氏他による1998年の結果では、設計事務所において「導入予定なし・検討中」が5%であったが、図3では「導入していない」が16%と割合が高い。現状では小規模設計事務所のみで見ると、CADの必要性を感じていない割合が高くなる事が分かった。
A社内・社外ネットワークの活用(図4・5)
社内ネットワークより、社外ネットワークの活用率が高い。社内ネットワークの活用をしていないと答えたのは、従業員数1、2人の所がほとんどである。少人数では、社内ネットワークの必要性が薄い事や活用方法が見出せない事が考えられる。
B情報のデータベース化について(図6)
大江氏他による1998年の結果同様、本研究の調査結果もデータベース化されている多くの情報は「過去の図面」であった。「ディテール」について比較すると、その割合が大幅に増えていた。また、設計者自身はデータベース化する必要性を感じているのに対し、会社ではデータベース化されていないという現状も多くあった。その理由として「時間がない」との回答が挙げられる。
C設計図書を保存・管理する媒体について(図7)
設計図書を保存・管理する媒体として「紙」が最も多い。しかし、「MO・CD・その他」を電子媒体としてまとめるとその割合は多くを占める。保存・管理に電子媒体を利用することが定着してきたと言える。またCDは媒体として良いと感じているが、その保存作業に手間が掛かる為、活用率は低くなったと考えられる。
D設計図書を納品する媒体について(図8)
民間・官公庁両方に対して、「紙」との回答が多かった。電子媒体で納品との要求がまだ少ない為である。「建築CALS」注)が目標とする実現内容の中に「電子納品」とあるが、現状ではまだ取り組み段階と言える。
E「建築CALS」について(図9)
建築CALSへの関心度はまだ低い。しかし、「知っている」と答えた人の8割が「すぐに対応すべきだ」と答えている。その重要性は高く認識されていると言える。
F
計者自身の意識(表2) 電子化の効果・落とし穴(問題点)については、表1の結果と同様であり、大規模・小規模設計事務所において、その傾向はさほど変化はない。つまり、小規模設計事務所において設備投資、技術者不足等の問題が大分無くなってきたと言える。しかし、小規模設計事務所の意識として少数ではあるが、「期待する効果」において「特に期待していない」との意見や「電子化における理想像」において「特に理想像は浮かばない」との意見があった。その他に、自由意見において、比較的「電子化」に対する批判的な意見が多かった。
4. まとめ
大規模組織事務所に比べ、小規模設計事務所における「電子化」の浸透率は比較的低いと言える。そして、「電子化」による効果・問題点は、大規模・小規模に関係なく、その傾向はさほど変化はない。しかし、小規模設計事務所では「電子化」に対し批判的な部分が残っている所も少なくない。おそらく少人数の為、個人の考えが強く残り、なかなかそこから抜け出せないからであろう。単にコスト面等の問題だけでなく、意識的な面で「電子化」を受け入れる体勢が不十分であると言える。それは、「建築CALS」の認識度の低さからも言える事である。つまり、今はまだ建築設計業務における「電子化」の現状は、取り組み段階と言える。
謝辞:本研究のアンケート調査にご協力して下さった各位に深く感謝いたします。
参考文献及び注記 1)大江氏他:「建築設計・施工の情報化に関する研究」、1998年日本建築学会大会学術講演梗概集、p389〜390、1998.9.
注)「建築CALS」とは、国土交通省が主導しており、企業間等においてライフサイクル全般にわたる各種情報を電子化し、それをネットワークを介して交換および共有し、コスト削減等の様々な効果を図ろうとする活動であり、概念である。
全体的に、小規模設計事務所は「建築CALS」への認識度がかなり低く、社会的に「電子化」への対応が遅れている。しかし、その概念は設計者自身の頭にあり、「電子化」に対応しようとする体勢が見られるのだが、意識的な部分で「電子化」に対し懐疑的な部分がまだ残っている。