”百聞は一見に如(し)かず”という言葉はよく知られています。この言葉の続きに”百見は一触に如かず”という言葉があります。情報過多の時代にあって、現実世界での実体験の大切さを表現した重みのある言葉といえます。
”百聞は一見に如かず”という言葉に触発されて、人間のもつ視覚機能について一寸興味を抱き、身近な本を見回したところ、岩波新書から”どうしてものが見えるのか”という題名の本(著者:村上元彦)が出ているのを見つけ、読んでみました。人間の視覚について、他の動物との比較を交えて書かれており興味深く読みました。しかし、本文もさることながら、とりわけ私の目にとまったのは、”まえがき”の終わりのところに書かれた文章でした。著者が、なぜ視覚や色覚の研究を志したのか、その理由について記述した部分です。実は、著者は自らが色覚異常であり、そのことで少なからず苦労したこと、それが、視覚や色覚の研究を志した動機とのことでした。それゆえ、色覚異常についても科学的で正しい理解が必要との認識から、本書では項目を設けた記述がなされています。無知からくる偏見の浅はかさについて考えさせられます。
本書は、1995年10月に出版されました。その後研究の進展についても知りたいと思い、改訂版等が出ていないか調べたところ、本書は現在品切れで、残念ながら重版未定となっています。幸いにも本書は、小山高専の図書館に所蔵されているためご覧頂けます。興味のある方はどうぞ。
(電気制御工学科 伊藤 久夫)
「高専だよりNo.135 掲載」