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平成 18年 第3回 建築学科 高橋大輔

「写真からのメッセージ」

 私は膨大な量の報道関係資料や建築・アートのみならず、様々なジャンルの本が屋根を支えているような家で育ちました。壁が本だらけの薄暗い空間の中で、幼少の頃、いつも見開いていた本は、素っ気ない段ボールのケースに赤地に白抜きのシンプルなロゴだけが貼ってあるLIFE誌の報道記録写真集でした。

 その中には、今でこそ有名になったロバート・キャパの「崩れ落ちる兵士」やマリリン・モンローのプライベート・フォトなど、20世紀前半のモノクロームの報道写真が沢山掲載されていました。それらは、言葉では表現できない何かを痛烈に訴えかけてきたことをいまでも覚えています。私が今、報道写真家の中でも非常に注目しているのはジョナス・ベンディクセン(http://www.jonasbendiksen.com/)という若手写真家です。最近出版された彼の初の作品集「Satellites: Photographs from the Fringes of the Former Soviet Union」を一度手に取ってみてください。表紙の写真は、宇宙船の残骸の上にいる人と空中を舞う蝶という光景に見えますが、彼らはこの残骸の金属を売って生活している人々であり、この宇宙船の残骸は放射性物質を拡散しているという、のどかな光景に潜む恐怖を撮影した作品で話題になりました。

 これは真実であるからこそ、見えない恐怖をより引き立てているのであり、もしこれが偽りであるなら、その恐怖感は伝わってこないでしょう。

 昨今、インターネットをはじめとする様々なメディアが情報を発信していますが、果たしてどこまでが真実なのか疑いたくなることがあります。

 私は学生の頃から沢山の国々を旅して、建築や都市、集落だけでなくそこに生活する人々を撮影し、「真実を伝えていきたい」という思いから、その膨大なストックを講義資料として使っています。

 このような情報過多の時代だからこそ、フェイクではなく本物を取捨選択していく審美眼を学生諸君には養ってもらいたいと思っておりますし、文章で綴られた本を読むということは人生の経験の上で絶対に必要なことですが、時には写真が訴えかける何かを読み取ることも技術者の創造性を養っていく上で大切なことではないでしょうか。

(建築学科  高橋 大輔)
「高専だより No.139 掲載」