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平成 21年 第1回 一般科 中田伸一

思考の質を高める読書

 最近、ある経営セミナーの席上で聞いた話の一つが心に残りました。各自の「時間の使い方について点検し、より重要なことに時間をシフトせよ」という主旨です。講師はすでに何百冊もの著書があるので説得力がありました。再現すると次のようなことでした。

 近ごろインターネットや携帯電話などの普及が著しく進み、ビジネスであれ私用であれ、それらのツールに向かう時間が増える反面、考えを深め、思想をつくる時間が消えている。パソコンは事務処理や製造工程のような場では非常に重要なものではあるが、経営判断のレベルになると「使いで」がかなり落ちてくる。インターネットで検索して集めた情報誌を読んでもほとんど意味がない。もっと難しくて読むのに時間のかかるような本を、じっくりと読みながら、繰り返し考えなければ、思想というものは紡げない・・・。

 私は自分の問題を指摘されたような気がしました。というのは、ホームページとブログを自作して公開しているので、ネットに時間を使う方だからです。情報を発信し続けるには読書という名の充電も必要であり、読書をするためにネットを選んでいるのですが、時間の質についてはどうなのでしょう。将来性のある学生に対しては、講師の言うように、じっくり本を読んで繰り返し考える方を勧めたいと思う一人です。

 結局、一日二十四時間の枠の中で誰しも生きています。時間の質と思考の質を高めようという目標を立てるとき、無用なことに時間を使うまい、有益の書を読もうという決意が必要です。次に、何を読めばよいかという問題が出てきます。娯楽や調べ物に充てる読み物は各人の好みで選ぶとして、これとは別に、自己投資という観点からいえば、「古典」と「偉人の伝記」を外すことはできないと私は思います。本校生に向けて言い添えるならば、古典といっても、文学、思想、歴史などの分野だけでなく、科学技術分野の古典も含みます。偉人の伝記には、考え方や生き方について良質の情報がたくさん含まれています。

 私は高専が発足して二年目に、高専図書館に出入りすることが許されました。その当時と今を比べると、図書システムの大きな変化はIT技術がもたらしたものであることが分かります。本の検索、貸出返却の処理、校内外との緊密な連携など以前には考えられないことが実現しました。ただし、書物との向き合い方については何ら変わりません。一日二十四時間のうち、どれだけの時間を読書に配当するのか、しないのか。どんな本をどのように読むのか、あるいは読まないのか。

 人は「考える力」によって人生を作ってゆきます。考えは一種の磁石のような力があり、自分が考え続けているもの、求め続けているものを引き寄せる力があります。よりよく考えるために、良書から学びたいものです。

(一般科  中田 伸一)
「高専だより No.149 掲載」