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平成 26年 第1回 一般科 有坂夏菜子

英語の文化


 日本人は、英語コミュニケーション力が不足していると言われている。それでも、何とかして英語で言いたいことを表現したいと願う人が大半であろう。そしてやはり、日本人である以上、どうしても「よろしくお願いします」という言葉を使いたくなる。さて、この「よろしくお願いします」を英語にすると、どのようになるのであろうか。


 旺文社の和英中辞典の「よろしく」の項によれば、「今後ともどうかよろしくお願いいたします」の英訳は“I am glad to make your acquaintance.”となっている。確認のため、三省堂のウィズダム英和辞典でこの英文を調べてみることにしよう。この辞書の“acquaintance”の項をみると、“make A’s acquaintance”というフレーズは、「A〈人〉と知己を得る、知り合いになる」という意味であり、先の英文がそのまま載せられている。その和訳は「拝眉の栄を賜り[お目にかかれて]嬉しく存じます」であり、期待していた「よろしくお願いします」という日本語訳ではない。果たして、私たち日本人が使う「よろしくお願いします」は、「拝眉の栄を賜り嬉しく存じます」に置き換えられるだろうか。


 要するに英語には、日本語の「よろしくお願いします」に一致する表現がないのである。英語という言語が私たちの日本語と異なっているのは、文字や文法だけではないようである。「よろしくお願いします」を使うことなしで会話が流れるのだから、英語と日本語では何かが根本的に異なっているとしか考えようがない。つまり、英語の思考回路が日本語のそれとは異なっているからではないだろうか。英語で「よろしくお願いします」とほぼ同じ文脈で使われる言葉は、おそらく“Thank you very much”であろう。この言葉を本当の意味でうまく使いこなせるようになった時、英語の思考回路に近づいたといえるのかもしれない。


 言語というものは、その土地に住んだ人々の歴史や精神を反映しながら変化し、成長してきた。言葉が異なるということは、同時にその言葉を作りだした背景にある歴史や文化そのものが異なっていることを意味している。英語を本当の意味で使いこなせるようになるためには、欧米の歴史や文化背景を勉強することが必須である。そしてそれと並行して、母国語である日本語や日本文化を勉強することで、欧米との違いを深く認識し、さらに相手を理解する力を養えば、よりよい英語コミュニケーション力を身につけることができるのではないだろうか。


(一般科  有坂 夏菜子)