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平成 30年 第1回 図書情報センター長 柴田洋一

紙の書物を読みましょう


 見知らぬ町に出張に出かけると、よく迷子になります。以前はよく旅行雑誌などを持ち歩きましたが、できれば荷物を減らしたい、そこで数年ほど前にスマートフォンを購入しました。数週間の試行錯誤ののちようやく地図ソフトを開くことができました。すごいものです、今どこにいるかまでわかる。今では簡単な操作であれば私でもスマホ検索ができるようになりました。コンパクトでスピーディな情報は、デジタルならではのものです。しかも膨大な項目が並んでいます。情報発信の分野はデジタル技術によって革命的に拓かれました。


 PCは長年使ってきましたのでディスプレイは見慣れているつもりですが、今でも込み入った情報を見るときは紙に出力します。目が疲れるからというのもありますが、どうも紙の方が縦横無尽な読み方ができる気がします。いわゆる斜め読みや、あれが書いてあったところに戻ろう、など目を転じやすい。おそらくディスプレイの場合は映像画面という1カ所で情報を入れ替えているのに対し、紙では見る側の方が紙の上を移動しているからでしょう。どのあたりに書いてあったかという記憶が空間的な位置と一緒に記憶されているように思われます。この感覚は単なる文の記憶だけでなく、本全体をマクロにつかむという認識につながっているように思います。マクロというのは本全体の構造のことです。作者の目的と主張がどこに現れているかつかみやすい。全体的なマクロイメージをつかんでから、もう一度今度は各章毎の中間的な構造を読んでみる、最後に言葉や表現方法などミクロな目で読む、紙の場合こうした立体的な読み方ができるように感じます。


 一つ一つの話が重厚長大であったり、複雑な構造の話はネット上ではあまり見かけません。データ量も重すぎてネット配信に向いていないということもあるのでしょう。こうした内容に適している媒体は書物です。学問や思想と言われているものは、そうした重厚長大なお話です。ですから学問を根本的に知りたいときは重たい本を開くことになります。学問や思想というのは人類が長い年月をかけて積み上げてきた思考の産物ですから、一朝一夕でわかるものではありません。じっくり長い時間をかけてゆっくり深く考えながら行きつ戻りつ読んでいく、こうした読み方にも書物は適していると思います。


 一方、学生時代の勉強というのは別の側面もあります。数年で一通りのことを身につけ、その道で仕事ができるようになる必要がありますから、これはこれでコンパクトでスピーディな勉強も必要です。ただし、こうした勉強で得た知識は要点なのでそれぞれが孤立した「点」です。これらの点を線や面そして立体にするのは、手間と時間をかけた読書です。知識が立体になって初めて構造がわかります。


 細切れの時間でもいいので、少し長い期間をかけて厚みのある本を読んでみませんか。


(図書情報センター長  柴田 洋一)
「工陵(小山高専だより)Vol.5 掲載」