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令和 2年 第1回 図書情報センター長 有坂顕二

「本との出会い」


 昨年度、令和元年度より図書館情報センター長となりました、一般科の有坂顕二です。本来ならばこの「図書情報センターだより」には、昨年度中に新センター長就任の挨拶を書かねばならなかったのですが、二年生の担任を兼務していましたので、多忙を口実に期限を引き伸ばし、結局、書かないままで終わって、いや、終わらせてしまいました。ただ今年度は担任からも外れ、執筆を回避するための言い訳もなくなりましたので、かなり遅くはなりましたが、就任の挨拶を兼ねて「本との出会い」という題名で、私の読書体験を、特に高校時代までのそれを、少々披露してみたいと思っています。


 私にとって「本との出会い」と呼べる体験は、これまでの人生の中で四度あったと思っています。その最初が小学校六年生の頃だったでしょうか。小学生時代、田舎に生まれた私にとっての一番の娯楽は、中学時代を含め、テレビを見ることでした。私にとっての「マンガ」はテレビマンガであり、「ウルトラマン」や「仮面ライダー」シリーズから少女「マンガ」、お笑い番組まで、あらゆるテレビ番組を、まさに「見まくって」いました。そんな私を心配した母がある時、小・中学生向け世界文学全集を買ってくれました。ただ、それは当然、私の望んだものではなく、したがって本棚に放置、という状態が長く続いていました。そしてそれが毎晩、本棚から威圧的にこちらを見下ろしていたのです。ある晩、母への申し訳なさもあり、その中の一冊、「シャーロック・ホームズ」シリーズの『赤毛組合』と『まだらの紐』が収められている巻くらいは読んでみようと思い立ち、手に取りました。それ以来、「ホームズ」シリーズにはまり、他の推理小説も、文庫版を買ってきては毎晩それを読みながら寝る、というのが学生時代の習慣となりました(そして当然、世界文学全集の全てではありませんが、他の巻も読みました)。


 そのような日々を送る中、高校時代、部活にのめり込む一方で、二度目の「本との出会い」と言えるものがありました。それがフレデリック・フォーサイスの『悪魔の選択』という本との出会いです。高校の図書館で、そのタイトルに魅かれたのでしょうか、偶然手に取った本でした。二巻本で、借りたその日に徹夜同然で読み終えたことを記憶しています。それ以来、現在まで、フォーサイスの長編小説は全て読んでいます。『オデッサ・ファイル』からはナチスの行った行為の詳細を、そして『アフガンの男』からはイスラム過激派の誕生の原因が旧ソ連のアフガニスタン侵攻まで遡ることを学ぶなど、現代史に関する私の知識は、教科書ではなく、フォーサイスの小説に負うところが大きいと断言できます。


 ここまで、私に大きな影響を与えた二度の「本との出会い」について書いてきましたが、正直なところ、それが私にとってよかったのかについては判断がつきません。ただ、個人の力や個人的体験のみで自らの世界を広げることには限界があります。誰か、何かと出会い、その力を借りることで、思ってもみなかった知識や感動を得ることが多々あります。これから皆さんにとって、よかったと思える本との出会いが沢山あることを祈っています。


(図書情報センター長  有坂 顕二)