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令和 2年 第2回 電気電子創造工学科 久保和良

コロナ時代のインターネットと紙の本


 楽しい読書の時間と友達とのつながりに感謝したくなる出来事が,コロナの時代にあった。疑心暗鬼の世の最初の闇を愉快に乗り越えさせてくれた小さな話を記しておきたい。


 2020年の春,いよいよCOVID19が身の回りに影響するのではないか,と多くの人が考えていた頃,自然発生的にいくつかの興味深い活動があった。その一つが「7日間ブックカバーチャレンジ」である。主にFacebook上での活動と思うが,実名投稿のSNSならではのこと,知的な活動である。確かに外出を避けるなら,家でできる楽しみに,遠隔で意見を述べ合うのは正しいと思う。自分は故郷の歴史家の方からバトンをいただいた。


 このチャレンジは,7日間にわたって読んだ本やお薦めの本の表紙を投稿するだけである。そして,誰かにバトンを渡してゆく。本好きの知的な人が受け取るバトンの成果で,多彩な本の表紙を頻繁に見ることになる。これは自粛しながらも楽しい出来事であった。


 SNSでのこのような活動は,一種のチェーンメールと同じことなので危険かもしれない。しかし,自分の周囲では楽しさを上回る危険は感じられなかった。実効再生産数が7のこの活動,コロナ拡大と比較すると不謹慎かもしれないが,流行はいつの間にか始まり,参加した人が叩かれることもなく,気がついたら終息していた。これは協力した人が自律的で知的な方々だったこと,おそらくそれがプラスに働いたのだろう。面白いのは,私にバトンを回してくださった方にもバトン渡しがあったわけで,さかのぼると4人先の方が見知らぬフリーランスの編集者Mさんであった。お友達申請して話をしていると,彼女が今なさっている編集のお仕事が,私の大学時代のクラスメート(漫画家)の「イラストの描き方」の本の出版とのことであった。(青木:iPad&クリスタで描く ゆるゆるマンガ道,玄光社,Sept.2020)つまり友達を6人先までさかのぼると,自分に行き着いたことになる。


 歴史的に有名なSNSの基礎研究に,イエール大学のStanley Milgramが1967年に行った実験とその成果「六次の隔たり(Six Degrees of Separation)」がある。インターネットがなかった時代の実験は,無作為に160人に手紙を送ること。その内容は,同封の写真の人を知っていれば,この手紙をその人に送ってください。知らなければ,知っていそうな人に転送してください。その際,あて先は消さずに見え消しをして,その人に転送してください,そのようなメッセージを書いて送る。その結果,160通のうち42通が写真の人に届き,それらが届くまでに経た人数の平均が5.83人であった。つまり,「友達の友達」を6人たどると,世界中の人につながる,という理論である。確かにSNS友達が仮に50人いて,友達の友達を6人先までたどると50の6乗で156憶人を上回る。世界人口の2倍である。これが,いまさらながら自分の身近に起こったことに感動を覚えた。


 さて,紙の本であるが,オーストラリア国立大学と米ネバダ大学の研究者たちが2011年から2015年に31の国と地域で25歳から65歳の16万人を対象に行った「国際成人力調査(PIAAC)」の研究がある。成果は学術誌(Social Science Research Vol.77, pp.1-15, Jan.2019)に発表されている。それによると,本が少ない家庭で育った子供の識字レベルは,そうではない子の約半分であり,思春期に家に紙の本が80冊から350冊あった成人の識字レベルは計算能力,問題解決スコア,情報通信スキルとともに本の多さに比例して高くなり,350冊以上では線型比例ではないが増加がみられるとのことであった。最終学歴が中学卒業相当であっても,たくさんの本に囲まれて育った人は,大人になってからの読解力,数学的思考力,ITを活用した問題解決能力が,本がほぼない家で育った大卒の人と同程度だという。読み書きや数学の基礎知識において,子どもの頃に本に触れることは教育的な利点が多いのである。おそらく,紙の本を手に取ることができる環境の存在と,身近なおとなが本を手にしている姿を見て,憧れとして育つことの重要性があるのだと思う。


 思春期の皆さん,元・思春期の皆さんも含めてですが,小山高専には紙の本がたくさんある。未来のために,躊躇うことなく,たくさんの本に触れてください。


 さて,昨年の私のブックカバーチャレンジは,7冊目まではFacebookで全世界に実名で公開されている。実はそのあとが止まらなくなって,友達公開のものが50日目まで続いた。さすがにその頃にはコロナの第1波が収束していたので,50回で止めた。この文を書いている時点では,コロナの第3波が来ているので,再開しようとも思案している。


 私が紹介したのは,2020年4月26日の第1日目「つくばぶらいと珈琲物語」,2日目「ホトトギス百号」,3日目「心」,4日目「向田邦子の青春」,5日目「あした会えるさ」,6日目「霞ヶ浦風土記」,7日目「常陸国衙跡」,その後は8日目「学校裏から始まった」,9日目「父」,10日目「アンパンマンスーパー大図鑑1600」,さらに20冊目「コンピュータ学」,30冊目「クローズド・ノート」,40冊目「長ぐつと星空」,50冊目「代数学の歴史」(6月14日)と続いた。50冊も表紙を眺めてみると,なかなか嬉しいものである。3冊目の漱石の「心」では,釧路の文学者O先生から「文学者のよう」とコメントをいただき感激した。1冊目の著者Iさんは喫茶店のオーナーで,私が大学生のころから,たまにお話しした記憶がある。この本,のちに田中好子さんがIさんを演じ,TVドラマ化された。閉店後に消息が途絶えて,心配していた。たまたま私の投稿をご覧になった,自分の高校の先輩Aさんを通じて,お話しすることが叶った。本とインターネットの威力を感じた。


 どうですか,紙の本とインターネット。人とのつながり。外出を自粛して離れていても,豊かな関係があります。そして新たな発見,新しい友達。ぜひ,図書館から始めてみませんか。本校の図書情報センターには,たっぷりの紙の本と情報端末があり,よく整理されています。さあ,背中を押してあげましょう!あなたがここに来れば,今すぐ,始められますよ。


(電気電子創造工学科  久保 和良)