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令和 3年 第1回 物質工学科 亀山雅之

教科書はどうなるの?

 現在、担当する有機化学の教科書は、英語の原著版を日本語訳して出版したペーパーバック版である。出版元のアメリカでは数十年前からペーパーバック版あるいはルーズリーフ版が正式に出版されていたが、その重量が問題であったのか、ここ数年はハードカバーの教科書はほとんど見当たらない。今ではe-Bookと称したダウンロード版に進化している。

 これまで本文中の反応式や図などを収めたDVDが入手可能であり、教師にとってこれは非常に便利であった。ダウンロード版ではこの図等が手持ちのタブレットPCで所定のアプリケーションを使って3D画像で自由に見ることができると聞いている。これに加えてダウンロード版のほうが10%ほど安価となっている。

 出版社の手先のようだが、この現状をどう考えるだろう?PCのために初期投資は必要だが、きれいな写真や図を自由に拡大でき、ペーパーバック版より軽量な媒体で場所を問わず学習できるならば、検討しない手はない。コロナ禍でオンラインやオンデマンドの講義も増えていることを考えればなおさらである。

 およそ20年前から運営されている日本最大の化学に関するまとめサイトがある。運営の中心人物の大学教員が学生時代に、重い教科書を持たずにいつでも自由に専門の化学を学習できないか、との発想から開始したと聞いている。現在では幅広い化学の専門知識を有する約120名の有志スタッフにより、多様で高度な世界中の化学情報が分かりやすく解説されているので、私は本校の学生にも自信をもって勧めている。

 注目すべきは彼の発想にある。オンライン化は多様な方面で極めて速く進んでいるので、いつでもどこでも学習できるメリットから紙の教科書がダウンロード版に置き換わるのは時間の問題である。私の担当科目は分子の構造式等を自分で描かないと理解しにくい部分もあるので、PCの環境だけでなく講義スタイルを進化させる必要があるが、真剣に取り組めば5年後には有機化学の講義において学生の机上から本とノートは消えるに違いない。

 大きなお世話だが、図書館は遺跡の発掘現場にならないだろうか?あるいは遺跡は歴史的に重要なので消滅しないのだろうか?

(物質工学科  亀山雅之)