生物は何故光るのか!? 生物が生体内で励起分子をつくり、それから出る光を利用してきたということは、大変興味深い現象である。それら発光生物のエネルギー効率が極めて高く (Table 1を参照)、現在の照明技術の効率を遥かに超えていることも驚異の現象である。 一般に、生物発光は有機化合物の酸素による酸化反応エネルギーに基づくものが多く、原生的生物発光の目的は一説には地球上がまだ嫌気的条件下(無酸素)にあった頃、有害な酸素を除去するために用いられたとされている。 |
生物 | 量子収率 | |
生物発光 | Bacteria | 0.12〜 |
ウミホタル( Cypridina ) | <0.28 | |
ウミホタル( Renilla ) | 0.05 | |
ホタル | 0.88 | |
オワンクラゲ( Aequorea ) | 0.23 | |
化学発光 | Luminol | 0.036 |
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アンコウの骨組み ※大洗港にて撮影しました※ |
アンコウの人形(購入しました) | シーラカンスの剥製 ※深海水族館にて撮影しました※ |
ダイオウグソクムシ ※深海水族館にて撮影しました※ |
1) 餌の誘引説
深海魚のチョウチンアンコウ(Himantolophius groenlandicus), 口の上に発光器を持つハダカイワシ類(Myctophidae)や、昆虫であるArachinocampaの幼虫の発光は餌の誘引であるとされる。Hanedaらは、チョウチンアンコウの持つアンテナ先のフクラミ(esca)は、細胞内でも細胞外でも発光するという現象を報告している。それによれば、この魚は海底でアンテナをゆっくり振り、フクラミの明滅に小魚が誘引されてくると、フクラミの周りの器官から強く光る物質を噴射し、小魚の目をくらまして、捕食するのではないか、と報告されている。詳細な生態はまだ不明であるが、その全てに共生している発光細菌が関わっているという説が根強い。特にハダカイワシは、周囲の光の強さに応じて発光の強さも調節できるとされている。
2) 敵からの防御説
発光魚であるPhotoblepharonは、光を点滅させ敵の目を閃光による一次的な盲目状態にして逃げる。ヒイラギ科の魚pony fishは、腹面一帯がぼんやりと発光するため、昼間この魚より深いところからこの魚を見ると、背景の光と腹面の光が同程度になるため、魚影を敵から隠す働きを持つ。ホタルイカは、網などで捉えられたときにフラッシュライトのような光を出す一方で、弱い光も出すことが出来る次の3)の意味も持つと考えられている。通常のイカはスミを吐いて目くらましをすることが良く知られているが、暗い海底の場合黒いスミでは目くらましにならないから・・・、という説があるが証明はされていない。ウミボタルは敵に遭遇したとき、体内から発光する液を出して、自分は暗いところに逃げていくという行動をとることが知られている。また、ウミサボテンやコウモリダコ等は外部刺激に対して発光で強く反応を示すことが知られている(威嚇行為?)。尚、数100m以上の深海では、青色光のみしか達せず、この水深における光は垂直方向にしか見えないとされている。従って、下から襲ってくる魚(特に深海には目が上向きの魚が多い))がいた際に、発光魚の腹部が光った場合、周囲の光(青色光)に発光魚の姿が溶け込んで、場所がわかりにくくする効果があるとされている。
3) 仲間とのコミュニケーション, 性フェロモン説(求愛説)
よく知られている例として、ホタルのルシフェラーゼ, ルシフェリン反応(L-L)がある。この反応は発光色、発光パターン等により識別や交信が行われる。発光ゴカイ(Odontosyllis)は、メスが水面をくるくる回りながら光の輪を作り産卵すると、オスが中心に突進して精子をかけるという。キンメダイの一種、オオヒカリキンメダイは、眼の下に半月形をした発光器を持つ。この中には発光細菌が共生しており、その発光器を瞼のような膜で上げ下げして光を出したり消したりする。不定期ではあるが、絶えず光の点滅を繰り返すことから、仲間同士のコミュニケーションに用いられていると考えられている。インドネシアの漁師は、この魚を釣り針の上につけると魚が良く釣れることから珍重されているらしい。沿岸に住むヒイラギも発光細菌を内包する発光器を持ち、メスを誘引する。ヤリイカも光ることでメスを誘引することが知られている。
キノコの一部にも発光することで媒介者を集める種がいることが報告されているが、発光しない場合でも集まることが知られており、明確な作用は未だ不明である。
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Fig. ヒカリキンメダイ(Lantern eye fish) の発光の様子(撮影は田中、深海水族館にて) この魚は目の下に半月状の発光器を持っており、そこで発光細菌を飼って(?)います。 この発光器を回転させて、発光のON-OFFを行うようです。 発光細菌は、ルシフェラーゼ反応により光っています。 発光細菌とこの魚の関係は、共生関係と言います。 ※生息水深 50〜200m |
4) その他
発光の目的がわからないものとして、クラゲ、エビ、キノコ、カタツムリ、ミミズ、原生動物(夜光虫等)、発光細菌がある。発光細菌は本来は非発光の生物にとりついてしまい、発光生物と誤認させることもあるらしい。
以上のいずれの生物も発光酵素の反応を体内で起こすか(自力発光型)、微生物を制御して発光を起こさせている。自力発光型反応はルシフェリン-ルシフェラーゼ(L-L)反応が大部分をしめる。例えばホタルやウミホタルの反応は、以下の反応式で示される。
ルシフェリン-ATP+Mg2++ルシフェラーゼ → ルシフェリン-AMP-ルシフェラーゼ+ピロリン酸
ルシフェリン-AMP-ルシフェラーゼ+O2 → 生成物-ルシフェラーゼ+hν(発光)
この機構はATPに強く反応を示すため、微生物検出法として使用されている。微生物が存在し、生存していればその代謝によるATPが産出される。よって、ルシフェリンとルシフェラーゼのキットを用いれば、病原菌などの検出が可能になるのである。この方法はATP量と微生物量の間に相関性がある(定量性がある)ため、(微生物量による)危険レベルの設定がし易いという利点がある。衛生管理の厳しさが増すに従い、食品工場などでの需要が増してきている。
良く見かけられるクラゲの発光反応は概念的にはホタルと同じ反応である。ルシフェリン-ルシフェラーゼ複合体がエクオリン(イクオリンとも呼ばれる)というタンパク質で置き換わる。この場合、発光を示すトリガーとなるのはカルシウムイオンの有無である。また、オワンクラゲの中には別の発光タンパク質も存在していることが知られている。GFP(Green
fluorecent protein)と呼ばれるものであるが、これについてはノーベル賞により様々な書籍や特許等が日本語英語両方で多数報告されているので、ここではGFPについては改めて触れない(例えば、私が以前購入したのは、宮脇敦史編:実験医学別冊
GFPとバイオイメージング, 羊土社(2000) です)。
参考文献
1) 後藤俊夫:生物発光, 共立出版株式会社(1975)
2) 内田清一郎編:海洋学講座 第八巻 海洋動物生理, 東京大学出版会, pp.189-212 (1973)
3) 丸茂隆三編:海洋学講座 第十巻 海洋プランクトン, 東京大学出版会, pp.151-190(1974)
4) 服部明彦編:海洋学講座 第七巻 海洋生化学, 東京大学出版会, pp.187-204(1973)
5) 多賀信夫編:海洋学講座 第十一巻 海洋微生物, 東京大学出版会, pp.45-81(1974)
6) 日本化学会編:海洋天然物化学, 学会出版センター, pp.75-86(1979)
7) 岩井保監修:動物大百科 第13巻 魚類(1987)
8) NHK取材班編:生き物大紀行 第七巻, 図書印刷, pp.130-157(1990)
9) 今井一洋編:生物発光と化学発光, 廣川書店(1990)
10) 大場信義:ホタルのコミュニケーション, 東海大学出版会(1986)
11) P.E.Michel, S.M.Gautirt-Sauvigne, L.J.Blum:Talanta, 47, pp.169-181(1998)
12) 前田昌子:ぶんせき, 12, pp.71-75(1998)
13) K.Ito, K.Nishimura, S.Murakami, H.Arakawa, M.Maeda:Analytica Chimica Acta, 421, pp.113-120(2000)
14) 今井一洋,近江谷克裕編著:バイオ・ケミルミネセンスハンドブック,丸善 (2006)