発光細菌について(Luminescent bacteria)


発光細菌

 発光細菌は古くから知られた存在で、食物が暗所で発光、生物の死骸が発光する等の現象が知られていた。その原因が発光細菌によるものであるということは理解されていたが、その細菌の分類及びDNA配列の解明がなされたのは約20年前のことである。それによれば、大部分はグラム陰性桿菌である Vibrio 群中のVibrio 属, Photobacterium 属に分類される。

 これらの細菌の生育場所は、以下のように考えられている。

1) 海水中で独立生活
2) 魚類, 頭足類の発光器内(共生)
3) 生物の腐敗による繁殖
4) 昆虫, 甲殻類等への偶然の寄生
5) 海水魚の消化器官中やイカ等の表皮への常習的寄生

 発光細菌の中で、古くから着目されてきたものは、海洋性発光細菌V. fischeriV. harveyi である。この発光形式は、マーカー遺伝子と呼ばれる遺伝子の中の、lux 遺伝子により起こる発光反応である。この遺伝子は、目的の微生物を他の微生物と区別できる表現型をコードしている遺伝子で、その遺伝子によって起こる発光反応は可視化可能である (前のページで述べたGFPは、gfp 遺伝子である)。



この遺伝子の発光反応を簡略化すると以下のように示される。

NADH + H+ + FMN → NAD+ + FMNH2   (フラビンリダクターゼが関与)
FMNH2 + O2 + RCHO → 生成物 + 
     (ルシフェラーゼが関与)

※RCHO:アルデヒド


 上記反応を起こすlux 遺伝子は、図1のような遺伝子構成であるとされている。lux 遺伝子はルシフェラーゼ合成のlux A, lux B、アルデヒド合成のlux C, lux D, lux E、制御部分のlux I, lux R で構成されていることが判明している。この他にも lux Oは、lux オペロンのリプレッサーを司ること、lux F,G,H,Y の存在が確認されているが、機能については解明されていない。

 lux 遺伝子全てを標識に使用した場合、この細菌は外部から基質を与えることなく発光し、植物組織内等でさえも発光することが出来る。しかし、発光基質の生合成は、遺伝子を組み込んだ細菌の脂肪酸生合成機構と lux CDE遺伝子産物(アルデヒド合成酵素)の相互作用に依存しているため、発光の基質の生合成が不十分な場合、発光が低レベルになる可能性がある。
 一方、lux A及びB遺伝子を使用した場合は、ルシフェラーゼが発現しているときでも基質(アルデヒド)を与えなければ発光しないので、必要なときのみ発光させられる利点がある。その場合の基質は、揮発性で細胞透過性のよいデカナールを使用することで、サンプルの破壊を最小限にとどめることが出来る。
 デカナール以外の基質を加えた場合でも長鎖アルデヒドであるなら、発光反応は見られる。ある研究者によれば、炭素数の長さを変えて、ヘプタナール, オクタナール, ノナナール, デカナール, ウンデカナールを添加した時の反応速度及び発光強度の測定を行った結果、デカナールが最も良い結果が得られたと報告している。総説では、V. harveyi, V. fischeri に炭素鎖7-12を持つ各種のアルデヒドを添加した時の結果についてされている。この文献によれば、両方の発光細菌ともアルデヒドの炭素数が10の時(デカナール使用時)に最大発光量を得たと報告している。これらの発表の他にも、発光までの中間体の生成速度からデカナールが最適であるとの判断も下されている。

 Lux遺伝子によって発光したサンプルは、イメージ化してフィルムに感光させるか、ルミノメーターで発光強度を測定することにより菌数を測定出来る。フィルムに感光させた例として、Pseudomonsa putidaV. harveyilux ABを導入し、土壌中に接種したときの観察例がある。しかし、発光細菌の土中分布状態を把握する事は可能であったものの、発光強度はgfp遺伝子によるものの方が強くて感光させやすく、微弱発光であるため定量的な観察は難しく、オフライン操作であること等から、撮影後の画像解析等の研究報告例が他に無い。よって、ルミノメーターによる発光量測定の定量的な研究の方が現在では主流のようである。



参考文献

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6) W.A.Francisco, H.M.A.-Soud, T.O.Baldwin, F.M.Raushel:J.Biol.Chem., 268(33), pp.24734-24741 (1993)
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