発光細菌を光らせる遺伝子


lux 遺伝子

 lux 遺伝子は(特にlux ABだけの場合)、非常に小さいDNA断片なので、細胞に導入しやすく負担になりにくい。更に、細胞内の代謝に融合するので、代謝経路が動けば(通常の基質代謝もしくは何らかの刺激により)発光を開始することが知られている。よって、発光細菌に刺激物を与える(エタノール等)と、その発光強度が有機物濃度と非常に良い相関関係を示すことが知られている。BODの変化に対しても良い相関関係を示すらしい。これらの現象は、バイオセンサーとしての可能性を示すものであり、開発も行われている。

 このように細胞の代謝変化が発光によって迅速に把握可能な性質を利用して、特定基質を分解する微生物に lux 遺伝子を導入して、基質の分解量を発光によりモニタリングする研究が盛んに行われ、オンライン迅速測定の可能性についても報告されている。多くの芳香族化合物(TCE, トルエン, ベンゼン, フェノール , ナフタレン , クロルベンゼン 、アニリン 等)、重金属 、硫黄化合物等で実証されている。同様に温度変化 (高温 , 低温)やpH変化 、抗生物質による細胞への刺激 、濃度を変化させたアルコール 、UV照射等の刺激因子を、遺伝子を導入した細菌に添加し、その時に急激に発光反応する性質を利用したバイオセンサーも提言されている。この遺伝子を持つ細胞は、対数増殖期での刺激に対する発光応答が最も速いことが報告されている。他にも、刺激毒性物質の分子量が小さい物質の方が生物発光を示す時間が早かったという報告がある。

 細胞の代謝をより理解するために、定量的な解析も必要であるため、我々はP. putida mt-2 (TOL) に新規に lux 遺伝子を導入した発光細菌 Pseudomonas putida BLU を作製し、その増殖速度等のパラメータを野生株と比較し、ほぼ同じであるという結論を得ている。これは、lux 遺伝子が導入されても、細胞の代謝に負担をかけてはいなかったことを数値的に解析した例である。また、対数増殖期において、この lux 遺伝子導入細胞 Pseudomonas putida BLU は、細胞量と発光量に非常に良い相関関係を示し、以下の関係式が得られている。

発光量=α・X^1.6

(αは定数、Xは細胞濃度[g dry cells/L] )

 これは、発光量で細胞濃度が検出可能であることが初めて明らかになった報告である。


 



参考文献

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