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平成 20年 第1回 機械工学科 高島武雄

「図書館の記憶」

 私は,高専の学生だったころも今も,あまり熱心な図書館の利用者ではないが,学生時代の数少ない図書館の記憶を書いてみたい.

 ご多分にもれず,私も勉強に熱心ではなかった学生だったためか,卒業研究や実験レポート作成のために図書館の書物や図書館を利用した覚えがない.寮に暮らしていたため,試験勉強を図書館で行う必要もなかった.ただ,貧乏学生だったためか,あるいは単にケチな性格によるものか,当時本を購入して読むこともなかった.そんなこともあって図書館の雑誌は時々は利用した.そのころ読んだ小説に,後にピアニストの中村紘子さんの夫となる庄司薫の『赤頭巾ちゃん気をつけて』がある.芥川賞受賞作で『中央公論』(中央公論社刊.現在は中央公論新社)に掲載されたものを時間を忘れて読んだように思う.1969年のことである.あの軽い文体は,「憂鬱」ということばで象徴された,当時の重苦しい雰囲気を忘れさせてくれたものである.この作品は後に映画化され,中公文庫にも収められているようだ.

 それから,やはり雑誌『文藝』(河出書房刊.現在は河出書房新社)に連載された高橋和巳の『わが解体』は,図書館の書庫の中の書架と書架の間で読みふけった記憶がある.こちらは小説ではなく自らの心情を吐露したものであるが,中味の詳細は全く覚えていない.「世の中の「憂鬱」を一人で背負っているようだ」などと言われた高橋和巳は1971年にガンのため39才で死んでいる.私が高専の5年生のときである.

 他人に本を薦めるのは野暮なので,薦めるわけではないが,小山高専の図書館には,庄司薫の本が2冊,高橋和巳の本が4冊収められているようだ.2人の本をもう一度手に取ってみたいと思う.ひょっとしたら若いときの気持ちになれるかもしれないから.

(機械工学科  高島 武雄)
「高専だより NO.145 掲載」