研究紹介Research

 多くの生物[動物・植物・微生物]は,ヒトの生活に役立つ有用な物質を生産していることが知られています.当研究室では,微生物あるいは微生物が生産する有用な機能性物質(抗菌ペプチド,生理活性物質など)を利用して,食品の安全性や機能性を向上させるための研究に取り組んでいます.

研究紹介  得意とする技術  産学官連携実績・提案  交流希望分野  これまでの卒業研究テーマ

研究紹介

○未培養微生物(乳酸菌)の探索・培養法の確立と産業への応用

 自然界には数百万種以上の微生物が存在すると推定されていますが,その大半(99%以上)は発見・培養できておらず,未培養微生物(微生物ダークマター(Microbial dark matter))と呼ばれています(Nature, 522, 270-273 (2015)).近年では環境DNA解析等の発展により,培養を介さずに自然界の微生物菌叢を解明することができるようになってきていますが,実際にその微生物を単離し,詳細な性質を明らかにして産業へと応用するためには,未培養微生物を培養する技術が必要になります.
 私たちの研究室では,乳酸菌に用いられる一般的な培養条件(炭素源:グルコース,pH 6.0〜7.0)では培養が困難な新属新種の乳酸菌WR16-4T株(= NBRC 115064T株=DSM 112857T株)を発酵野菜エキスから発見・単離して,その生理学的・遺伝学的特性を明らかにし,新たな学名(Philodulcilactobacillus myokonensis)を提唱しました.また,その安定的な培養法(可培養化)も実現しました.

 これらの知識・経験・技術を基に,国内企業,国内外の研究機関(大学・高専等)の方々と連携して,自然界から新たな未培養微生物(乳酸菌)を探索して培養できるようにする方法(未培養微生物の培養法,未培養微生物の増殖を促進する物質の探索・精製,未培養微生物の増殖を阻害する原因物質の探索・精製)を開発し,産業(食品・化粧品など)へ応用するための研究に取組んでいます.


当研究室で発見・命名した新属新種の乳酸菌(Philodulcilactobacillus myokonensis WR16-4T)

○地域ブランド乳製品の開発・農産廃棄物の有効利用

 栃木県は生乳生産量が全国第2位の畜産県です.その一方で,少子化による学校給食用牛乳の消費量の減少,若者の牛乳離れ,家畜飼料価格の高騰,輸入乳製品との価格競争などの理由から,全国の生乳生産量は減少の一途を辿っており(平成5年:約850万t,平成25年:約750万t),地域の特色を生かした対策が切望されています.
 乳酸菌は発酵乳製品(チーズ・ヨーグルト)の製造には不可欠であり,摂取することで宿主に有益な効果(腸内環境改善効果・免疫賦活作用など)を示す微生物であることが知られています.また,予防医学に基づく第一次予防(健康増進・発病予防)の観点からも,疾病予防や健康増進への効果が多数報告されているプロバイオティクス(乳酸菌)に注目が集まっています.
 私たちの研究室では,栃木県の農産物から乳製品製造に利用可能な乳酸菌を分離・選別し,プロバイオティクスとしての機能性(人工消化液耐性・腸管細胞付着性・抗炎症性など)を明らかにする研究に取り組んでいます.また,当研究室で発見した乳酸菌を用いて,県内の企業,酪農家,高等学校,行政の方々と連携し,栃木県の生乳を活用した地域ブランド乳製品の開発に取り組んでいます.
 また,廃棄処分されている農産廃棄物を有効利用するために,乳酸菌を用いて農産廃棄物を家畜飼料に変換する技術を確立し,地場産業への実用化を進めています.

○産業廃棄物(副生グリセロール)の微生物変換

 廃食用油などから生産されるバイオディーゼル燃料(Bio Diesel Fuel : BDF)は,石油燃料とは異なるバイオマスエネルギーの一つです.菜種油(植物油)などの有機物が原料であり,燃焼で生じた二酸化炭素は植物が光合成によって吸収することから, 全体で見ると空気中の二酸化炭素量が増加しない(カーボンニュートラル)という性質を持っています.その一方で,BDF生産時に副産物として生じるグリセロール(副生グリセロール)には有効な用途が少ないため,その処理方法が問題となっています.
 私たちの研究室ではこれらの副生グリセロールを利用して,環境低負荷な手法(微生物の働き)で有用物質(有機酸・ビタミンなど)を生産し,産業廃棄物を高付加価値な物質に変換することを目指しています.



○食品微生物が産生する抗菌物質の探索・解析

 食品由来の微生物(プロピオン酸菌,乳酸菌,ビフィズス菌など)は,宿主の免疫力を高める・整腸作用があるなど,ヒトの健康の維持・改善に役立つ有益な微生物(プロバイオティクス・プレバイオティクス)が多いことが知られています.
 当研究室では,これらの微生物が生産する抗菌ペプチド(バクテリオシン)の各種病原菌に対する抗菌作用を調べると共に,これまで発見されていない新しい抗菌タンパク質の検索を行っています.

○農産廃棄物に含まれる炭素源・窒素源を利用した有用物質の生産

 栃木県は.かんぴょう・こんにゃくイモ・にら・イチゴなど,多くの農産物の生産が盛んに行われています.
 当研究室では,これらの農産物の生産時に排出される副産物・廃棄物に着目し,農産廃棄物中に含まれる炭素源(デンプン・セルロース)や窒素源(タンパク質・ペプチド)を微生物の働きで有用物質(抗菌物質・エネルギー物質)に変換することにより,地球にやさしい省資源・省エネルギーな循環型社会を目指した研究を行っています.



得意とする技術

  • 微生物培養(嫌気・好気)
  • バイオリアクター技術
  • 微生物の単離・同定
  • 有機酸分析
  • タンパク質・ペプチドの精製(各種クロマトグラフィー)
  • 抗菌物質や生理活性物質の定量法


産学官連携実績・提案

  • 食品腐敗防止技術の開発(提案)
  • 高品質な家畜用飼料の開発(提案)
  • 微生物を用いた機能性食品開発(提案)
  • 微生物変換を用いた農産廃棄物・産業廃棄物の高付加価値化(提案)


交流希望分野

  • 食品微生物
  • 食品加工・製造
  • 化粧品
  • 環境
  • 畜産

小山工業高等専門学校 物質工学科
微生物工学研究室

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