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本校物質工学科髙屋教員ら研究グループ、新属新種の乳酸菌を発見!

本校物質工学科の髙屋 朋彰 准教授らの研究グループは、株式会社ミヤトウ野草研究所【代表取締役 柳澤 博幸】石山 洋平 研究開発部長らと共同で、新属新種の乳酸菌WR16-4株を発見し、その培養に成功しました。

◆研究の背景
自然界には数百万種以上の微生物が存在すると推定されていますが、その大半(99%以上)は発見・培養できておらず、「微生物ダークマター」と呼ばれています(Nature, 522, 270-273 (2015))。近年では環境に存在するDNAを網羅的に調べること(メタゲノム解析)によって、培養をしなくても自然界の菌の種類の全体像(微生物菌(きん)叢(そう))を明らかにすることができるようになってきていますが、あくまで情報が得られるのみであり、その微生物を用いるためには、詳細な性質を明らかにして培養できるようにすることが求められています。

◆研究内容と成果
本研究では、株式会社ミヤトウ野草研究所が所有する発酵野菜エキスから新しい細菌を取得しました。この細菌は、一般的に用いられる培地条件(糖:グルコース(ブドウ糖)、pH:中性付近)ではほとんど増殖せず、また、菌を分離・培養するために最もよく使用されている培地のゲル化剤である寒天を用いるとほとんど生育できなくなってしまうという特性を有しており、これまで発見に至っていませんでした。
研究グループは、(Ⅰ)糖として分離源の生育環境に存在するスクロース(もしくはグルコースとフルクトース(果糖)の混合糖)を用いる、(Ⅱ)培地のpHを分離源の生育環境に近いpH4~5付近とする、(Ⅲ)培地のゲル化剤として寒天ではなくゲランガム(※1)を用いる(図1、※2)ことにより、液体培地と固体培地の両方での安定的な培養方法を確立しました。取得した細菌(図2)について16S rRNA遺伝子配列解析(※3)や全ゲノム解析(※4)を行い、世界中から登録されているデータベース内の細菌の情報と比較することによって、新種かどうかの判定を行いました。また、この細菌についてさらなる解析を行い、その特性(培養における性質、消費できる糖の種類など)を調査しました。
その結果、この単離した細菌は「種」よりも上位分類階級である「属」レベルで新規な乳酸菌であることが明らかとなったため、高い糖度の環境を好む性質および分離地である新潟県妙高市から発見されたことにちなみ、同グループはこの細菌を新属新種の乳酸菌”Philodulcilactobacillus myokoensis”と命名しました(”Philodulcilactobacillus”は新ラテン語で「甘いものを好む乳酸菌」、”myokoensis”は「妙高に由来する」)。本研究成果は、2023年6月22日(アメリカ東部標準時:2023年6月21日午後2時)に米国の国際科学誌「PLOS ONE」のオンライン版に掲載されました。

◆今後の展開
今回発見された”Philodulcilactobacillus myokoensis”がなぜ寒天培地では生育が困難なのか、検討を続けています。この新規な乳酸菌の遺伝的・生理的性質を詳しく調査することで、いまだ発見されていない新たな乳酸菌の分離や機能性の解明、食品や医薬品産業を含む様々な分野への応用につながることが期待されます。

◆用語解説
(※1) ゲランガム
微生物(Pseudomonas elodea)を用いた発酵で得られる水溶性の多糖類であり、他のゲル化剤(寒天やゼラチンなど)よりも耐熱性に優れています。
(※2) 嫌気的条件・好気的条件
生物が関わる現象のうち、酸素がない(酸素の介在を伴わない)状態を嫌気的条件、酸素がある(酸素の介在を伴う)状態を好気的条件といいます。
(※3) 16S rRNA遺伝子配列
細菌の同定に用いられる遺伝子配列です。この遺伝子配列を装置で解析し、その結果を世界中から登録されているデータベースにある既知の遺伝子配列と比較することで、どのような細菌であるかを推定することができます。
(※4) 全ゲノム解析
生物のゲノムを構成するDNAの全塩基配列を読み取り、解析することです。

◆掲載論文
【題 名】 Philodulcilactobacillus myokoensis gen. nov., sp. nov., a fructophilic, acidophilic, and agar-phobic lactic acid bacterium isolated from fermented vegetable extracts.
(発酵野菜エキスから単離した好フルクトース・好酸性かつ寒天では生育困難な新属新種の乳酸菌Philodulcilactobacillus myokoensis)
【著者名】 Tomoaki Kouya, Yohei Ishiyama, Shota Ohashi, Ryota Kumakubo, Takeshi Yamazaki, Toshiki Otaki
【掲載誌】 PLOS ONE
【DOI】 https://doi.org/10.1371/journal.pone.0286677
【掲載日】2023年6月22日

◆参考図

図1.培地のゲル化剤の種類が乳酸菌(WR16-4株)のコロニー形成に与える影響

図2.乳酸菌(WR16-4株)の走査型電子顕微鏡写真

 

◆プレスリリース(外部リンク)

https://www.value-press.com/pressrelease/319656

2023年6月26日